お気に入り手品アイテムをひたすらレビューするブログ

愛してやまない手品道具について語ります。

『スカルダガリ』ルーク・ジャーメイ

人の心を思いのままに操ってみたいと思ったことはありますか? その人の記憶を消したいですか? 水をジュースに変えて驚かせたいですか? 自分のことを好きにさせたり尊敬させたりして、魔法使いのようになってみたいですよね?

そう思ったあなたは、度し難いクズです。

しかしけれども、パフォーマーを志す者はクズ野郎であった方が良いのです。というのも、歴史的に見ても世界の独裁者や宗教教祖と言われる人たちは、大きなコンプレックスを抱えていたり、人格的に何かが欠落している人ばかりで、その欠落を埋めるための欲求が、行動力の源になっていることがままあるからです。
なので、もしあなたが救いようのないクズ野郎であれば、それを誇りに思うがよいでしょう。HAHAHA。

ところで、わたしが25歳の頃でした。自分に何のセンスもない凡人であることに気づいて手品にも人間にもこの世にも絶望していた時に、このレクチャーDVDに出会いました。その時のわたしは勤めていた家電屋(自転車部門)を辞めて、引きこもりのニートになっていました。パワーを欲していました。世界を牛耳るほどの力を。愚かな人間どもを支配する力を。

家電販売員を辞めて無為な生活を送っていたその頃のわたしはあらゆる手品から遠ざかっていました。自分には特筆すべきテクニックもなく、どっちかというと下手クソでした。かといってギミックによって成し遂げられた現象はわたし自身の能力ではないと思っており、それは誰にも自慢できなくて悔しい。ギミックなんて使っていてはマジックマニアにバカにされる。『それいくらで買ったの』『買えば誰でもできるんでしょ?』そんなこと言われたらげんなりする。もう嫌だ。

って、もちろん、実際はそうではありません。ど素人が高級な包丁を使ったからと言って料理がうまくなるわけがないのと同じで、どんなに不思議なギミックでも、使い手に技術がなければオママゴトにしかならないのです。

しかし、未熟なわたしはそのことに気づけなかったのです。

テクニックがなく、ギミックにも興味を失い、それでも手品という芸能を手放せなかったわたしはタネも仕掛けのない奇術を探し求めました。

だからもし、今、自分の手品の技量に自信を失ってギミックに対しても興味を失い、マジックの迷い子になっている人がいるなら、このDVDに救いを見いだすでしょう。

『何を言ってやがる。目を覚ませよ、このゴミが』

と、おっしゃる純手品人もいるでしょうが、いやいや。いいのです。なんども申し上げますが、カリスマは究極の愚者でなければいけないのです。

では、みなさんに紹介しましょう。

【ルーク・ジャーメイ『スカルダガリ』】

暗示とマジックを融合させたマジックです。厳密に言えば、ほとんどが催眠術の応用です。ルーク・ジャーメイさんは催眠術という言葉を好んでいないらしく、これらの技法を『暗示』と言っていますが、まあ同じじゃねーかと思います。なんにせよ手品的な手先のテクニックはほぼ使っていません。が、それゆえに催眠の知識がない人にとっては『こんなのできねーよバーカ』と、なるような気がします。

ここ数年でバーディー師の画期的な『ヒュプノベンディズム』によって、マジック界にも催眠に興味を持ち出すクソ野郎どもが増えてきました。
が、わたしほどのクソ野郎にもなりますと、時代を先取りしていますから学生の頃から、気功、タロット、川上たけしに興味を抱き、怪しい催眠術師のクソぼったくりDVDを買って勉強しておりました。ですから、この分野には大変明るいわけして、そんじょそこらのニワカ催眠手品師とはワケが違います。自信を持って催眠術について語る権利があります。えっへん!

というわけで、以下、わたしが感銘を受けた演技について記述していきます。

1、リバース・ゲシュタルト・モーメント

見せたトランプを忘却させる術です。厨二病みたいなタイトルセンスですが、本人にも自覚があるようです。
舞台上に二人の観客をあげて、リラックスさせた状態で座らせます。で、二人の観客に同じカードを見せるんですが、片方の観客はマジシャンの合図とともにそのカードが思い出せなくなるのです。おいマジかよ。ルークさんよお。フォースの力じゃねえか!

人間の認知のメカニズム(?)を利用した素晴らしい手順です。失敗したら普通の手品になってしまうんですが、それでもちゃんと成立してるし、ビビらず演じることができましょう。

2、フォー・アンドルッツィ

振り子(以下、ペンデュラム)を使った脈止めです。
ペンデュラムの揺れに合わせて観客の脈が徐々に止まっていき、ペンデュラムが動き出すと脈が再び動き出すのです。やった、自分の手を汚さずに人を殺せる!
これは古典的な脈どめトリックではありません。もはや手品でもなんでもありません。暗示です。催眠の知識があった方がやりやすいです。

3、セブンス・ディセプション

紙片に観客自身の恐れているものを書いて折りたたんでもらいます。それに火をつけて灰にすると観客の心にあった恐怖が綺麗さっぱり消え去るという現象です。これを見たとき、コックリさんと同じだ! と、思いました。これは間違ったやり方をすると大変なことになりそうです。例えば暗い部屋にロウソクを灯して自我が成長しきれてない思春期の子供たちを集め【これからきみの中にいる怪物をよびだそう。その怪物に飲み込まれると、きみは、なんにだって、なれるんだよ】と、信じ込ませることに成功したら、果たしてどうなってしまうのか。

4、ツイステッド・パーム

手のひらのシワをじっと見つめているとシワがグルグル動き出す術。たぶんいきなりこれだけやるのは無理なんじゃねーの? と思います。事前にクッションになる暗示をかけないと。いきなりこれだけ単発でやっちゃうと難しい気がします。が、わたしが路上で手品やってた時はいきなりこれをやっても成功することが度々ありました。たぶん路上で自分から積極的に芸を観たがるお客さんは、暗示にかかりやすい性質の人が多いからでしょう。ストリートマジシャンなどは路上でヤリまくって信者を増やし、自らのテジナ帝国を築いてみるといいかもしれません。

【総評】

当時のわたしはこのDVDを観て感激して知人のガンダムオタクにやってみたところ、全然成功せず、鼻で笑われました。憎い。ころす。ルークジャーメイ許さん。と、このDVDをゴミ認定してお蔵にしました。が、今になって思うと、その時のわたしはやはり催眠の知識と経験値が少なかったせいで、この作品の偉大さに気づいていなかったのです。

解説でも『暗示』についてもザッと語られてるのですが『なぜ人間は暗示にかかるのか』という原理そのものには語られてません。なので、演じる側はその現象の原理(何故そうなるのか?)を理解しないままこの通りやって失敗するというわけです。映像中の観客は見たところ、初っ端から暗示に入りやすいタイプの人だということが伺えるのですが、解説では暗示にかかりやすい人の選別方法やその重要性が語られていないのです。
ですから、このDVDを見る前に、他の教材で、『暗示』や『催眠』とはいかなるものかを把握してから視聴したほうが良いと思われます。

ジャーメイさんもバナチェックの書籍『サイコロジカル・サトルティ』をぜひ買うようにと言ってます。日本人で似たような感じのものとして挙げるなら、北原禎人師の一連の書籍だと思いますが、もう販売してないっぽいですね。残念。

とにかくスカルダガリは予備知識がないと『こんなの無理に決まってる』で終わってしまうことでしょう。
ですが、失敗してもアウトがきちんと手品として成立しているので、【自分にはゴミのような人間どもを支配する力がある】と、自信を持って演じればすべてうまくいきます。大丈夫。わたしが保証します!

 

『Thread』by Wayne Houchin

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やあ! テジナ界のセンパイ(?)であるボクが、君たちにいいテジナを教えてあげるよ!ウェイン・ハウチンの目から糸が出るテジナだよ。めっちゃウケるよ。やりなよ。

と、ユーチューブかなんかでこの奇術をオススメしてバカなキッズどもを失明させてやりたいと思った時期がありました。しかし、思い止まりました。いっときの憎しみによって若い人間の未来を奪うことは、よくないことであるよなあと、わたしの良心がそれを許さなかったのです。

この奇術は、口からビーズを飲んで目から出す現象のバリエーションだと思われます。

現象としては、シンプルで明快でインパクトがあり、非常に良い手品です。
わたしは気色の悪い原始的な奇術が好きなので、この手のPVを見ると『あらやだ、すごい』と、何も考えずに飛びついて痛い目にあう人種なのですが、この手品は本当に痛いです(肉体的に)。この手品は、うまいことやらないと目が赤くなります。

ギミックを使うバージョンと使わないバージョンがありますが、使うバージョンは身体に優しいです。ですが、使わないバージョンの方が圧倒的にリアルで不思議です。ただ、それなりの代償を払うことになります。ぶっちゃけ言いますと、相当身体を張ります。そして化粧をするのに近い、面倒な準備も必要です。演技直前の準備でないと、目がどんどん充血していきます。

ちなみにわたしは、これをやるたびに目がめちゃくちゃ赤くなります。ひどい時などは、フルメトロンとオゼックス点眼液のお世話になることがあります。ですから、真面目な話、これは、もしかしたら、結構危ないマジックなんじゃないかと思うのです。

そうは言っても、わたしは自分の名刺にテキトーにビザーマジシャンとか書いちゃったし、今更正統派のマジシャンに鞍替えできないので、もう手遅れです。っていうか、ビザールって何? 訳わかんない! と、思いながらいつも手品してるんですけれど、もう引っ込みがつかなくて『これがビザールです』とかミスターマリックのパクリみたいなセリフを言ってみたりするんですが、もうこんなのウンザリです。

世界は残酷です。

『メンタリスト』だとか『ブレインダイブ』だとか『サイコキネシスの彗星』だとか意味不明な二つ名を与えられて、一度その名が広まると辞めたくてもやめられなくなります。
ところで、ライトノベルかなんかを見てるとこういう二つ名がバンバン出てきて、わたしももうめんどくせえからこの中からテキトーにパクって自分のあだ名にしようかななんて最近思ってます。

例えば、本項で紹介しておるウェイン・ハウチンの『スレッド』は、演じたあとにすごく目が赤くなりますし、『灼眼の奇行師』とかいう二つ名なんかいいんじゃないかなって思うんです。

【総評】
良い奇術です。超オススメです。手品を志す人なら眼球の一つどうってことはないですよね。一つ潰れても、目は二つあります。こういうのでケチって演技しないのはもったいないです。人生損しますよ。

 

Brett Sherwood midi chop cup

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散財して破滅の道を突き進もう。そう思いました。だって、人間はいずれ死ぬんです。70年後にはほぼ確実に、いや、今日にも明日にも、10秒後に死ぬことだってあるのです。だったら、今を生きるのです。金なんかとっとかないで今すぐ好きなことに使うべきなのです!

というテジナ神の啓示をうけました。ですからわたしは純銀製のチョップカップを探すためにネットの海に身を投じたのです。
わたしは今、神の領域に達したような満足感を得ています。というのも、わたしはネットの海の底から神器を入手したのです。付属のボールや送料含めて800ドルもしました。でも、金で神器が買えるのです! 金こそが力だ!

これは純銀でできたミディアムサイズのチョップカップです。ミニサイズよりも一回り大きいのですが、手に収まる小ぶりなサイズ。視認性も十分あります。ライムくらいのサイズならギリギリ入る大きさだと思われます。

わたしはチョップカップをこよなく愛しています。テーブルホッピングでも、大道芸でも、ステージでも使えるこの汎用性。チョップカップに勝る奇術がこの世にどれくらいあるのでしょうか。

わたしは今までステージなどではRNT製のドンアランタイプの大きめのものを好んで使っていました。これも大変良いのですが、ホッピング用に小さめのチョップカップも欲しいと常々思っていました。で、国内のショップを散策したのですが、あるのはミニサイズばかり。小さすぎます。最後に出せるのがスーパーボールでは少し悲しい。そんなの嫌です。ラストはやはりライムとか姫ジャガとかウンコとかチンコとか変なのを出したい。

そこで、海外のあらゆるショップを巡ることにしました。で、ようやく見つけたのです。良いサイズのカップで、デザインも最高なヤツを!

Brett Sherwood

というカップ専門のマジックショップです。

真鍮、ニッケル、銅製。すげえ綺麗。わあすごい。そして、このショップの売りは純銀製の彫り物を施したカップらしいのです。普通サイズの純銀製カップアンドボールはなんと2200ドルです。ごめん、無理。散財の神すら打ちのめされる値段でした。ちくしょう! 馬鹿野郎。内臓売ってでも欲しいけど、無理なんです。パトロンがいないと無理! だれか、パトロンになって!

といって、いかんいかん。いけませんね。目移りしてチョップカップよりもカップアンドボールのセットが欲しくなってしまいました。許さんぞ、Brett Sherwood。

というわけで、当初の目的通り、わたしは純銀のミディアムサイズチョップカップとボールを購入しました。

素晴らしい出来栄えです。なんて美しいのでしょうか。純銀製なので、時を経れば色が変化していくのでしょうね。うふふ。わたしはチョップカップに関しては色がくすんでいる方が好きです。

ところでなぜわたしが銀のチョップカップを選んだかというと、まず第一に他人があまり持ってない素材の道具を所有することで自分が特別な存在になれると思ったからです。お前らのような愚民とはひと味もふた味も違う。わたしは高級な手品師だ。ひれ伏せ! と、そういった気分を味わいたかったのです。

第二に、純銀というものは先ほども申し上げた通り、経年と共に黒くなり、落ち着いた色合いになります。自らの肉体と共にくすんでいく道具を見て、そこに哀愁を感じながら大好きなマジックを演じられるのです。ああ! 考えるだけで幸せです。そして所有者は、道具よりもきっと早くに朽ち果て、骨となり、土に還る。わたしが使った道具が誰かの手に移って、使ってくれる。わたしの魂は永遠に生き続けることができるのです。
なーんて、そうはいくかよ! この純銀カップは死んでも渡させねえ。墓まで抱いて持ってくんだ! 他の誰にも指一本触れさせねえ! 
と、こういうドラマツルギーを楽しむこともできます。夢のようでしょう?

さて、使い勝手に関してはバツグンです。大変絶妙な加減のギミックなのでドンッとテーブルに叩きつける必要はありません。そっと置く感じで解除できます。本当に素晴らしいです。最強の武器を手に入れた気分です。うわははは!

【総評】

最高です。人とは違うものを使って悦に入りたいって人は買うが良いのです。好きなことには惜しみなく貯金を切り崩してください。女房を質にいれてでも手に入れてください。サラ金にお金借りてでも手に入れてください。それでもダメなら闇金に手を出して破滅するがいいのです。真のマジックオタクになるためには魂を売らねばならないのは当然のことです。そして、鏡に映る自分の姿を見つめながら狂ったように練習し続けて冷たい水の底に沈んでください。

 

『Triple Threat』『3CM』

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Triple Threatはトッド・ラッセン氏による特殊シェルです。

これを使ったわたし自身の演技をアップしておりますので、ご覧ください。

https://youtu.be/Jmoy2LRN8uo

しかし正味の話、このギミックは使いづらいです。わたしのようなテンヨー大好き人間はギミックがあれば、簡単に不思議現象ができると思ってるわけでして、なのにこのギミックと来たら高価なくせに自動で凄いことを起こせる系のギミックではありません。コインマジックオタクじゃないと宝の持ち腐れになります。

ぶっちゃけて言いますと、わたしは実践でこれ使ったことがないです。現在ではジョニーウォンのスーパートリプルコインがあるので、テーブルホッピングでやるならそっちの方が全然使い勝手がいいと思います。

しかしそれでも、わたしはTriple Threatが好きです。使わないのに持ち歩いてます。持ってるだけで幸せなのです。プラダやらヴィトンやらの重たいバッグを持って浮かれてしまう女の人と同じ気持ちです。実践で使えるかどうかよりもブランド品を持って鏡の中の自分を見る喜び。そういうロマンが、このギミックにはあるのです。

そして、3CMもほとんど同じギミックです。3CMはジミー・スクールクラフト氏が作製したものですが、これも同じくロック式のダブシェルです。機構そのものはおなじです。

ただ、ギミックの個性が違います。

3CMはほぼ完全に被さって横から見てもかなり綺麗です。そのかわり三枚目が薄くなっているのでテーブルに置くと、めちゃくちゃ違和感があります。

対してTriple Threatは横から見ると3分の2くらいしか被さらないため、一枚にした時の状態を横から見ると気になります。ただ三枚の厚みがほぼ均一になるため、プロダクションしたコインをテーブルに並べた時に違和感がありません。

ですから、もしこの二つのギミックで購入を迷っているなら、合わさった時の厚みを重視するか、三枚外した時のそれぞれの厚みを重視するかで決めるといいと思います。

これは多分、車の好みみたいなもんです。ポルシェ(triple threat)がいいかワーゲン(3CM)がいいか。そして、車はあれば便利だけど今は交通機関も整備されてるから都内なら電車(スーパートリプルコイン)でいいんじゃないのって感じです。

便利さよりもロマンに生きるって人は『Triple Threat』とか『3CM』を使ってみればいいと思います。

そしてギミックをスリービングしてミスって落としてオシャカにした時の絶望した顔を見せて欲しいです。おほほ。

ダーク大和『バケツ』

先月、初めてこの奇術を人前でやりました(セリフをど忘れして重要なところをすっ飛ばしたりしましたが)。

越谷の喰蔵というお食事処でやりました。ここでは月に一回、マジシャンの集うサークルのようなイベントがあります。そこでは超絶的なマジックマニアが集まるのですが、わたしはそういう場で、この手順をやらせていただいたわけであります。

しかしやはり、一朝一夕には名人芸は真似できぬということを知って、打ちのめされました。

これは、奇術界の玉三郎と呼ばれた伝説の奇術師であるダーク大和師匠のマイザーズドリームです。
素晴らしい芸です。
タネも仕掛けも、その上オチまで分かっているというのに、何度見ても面白いのです。
まさに名人芸です。
使用される手品的な技法といえばコインのフォールスカウントと超簡単なフィンガーパームモドキくらいなもので技術的にはめちゃくちゃ簡単です。が、この手順は手品とは別のところを稽古せねばなりません。

このレクチャーでもダーク大和師匠が言っておられますが、これは手品ではなく漫才です。間の取り方とか、喋りの雰囲気で観客のキッズと即興の漫才をするわけです。

実際にやってみて分かったのですが、台詞や動作が緻密に計算されており、解説通りに演じれば、即興で呼び出した観客(少年である必要があります)がまるでサクラなんじゃないかというくらいに空気を読んだリアクションをかましてくれます。ダーク大和師匠の見た目が、少年アシベの親父みたいな雰囲気なので、この奇術がそこまで計算し尽くされたネタとは思ってなかったのですが、猛省しました。

わたしはこれを持って漫才師というのは、自分を客観視する能力を持ち、かつ頭が良くなければならないと悟りました。

何がすごいって、この手順は観客席から呼び出した何の打ち合わせもしてないキッズから自然なボケを引き出すことができるのです。

しかし、演者が慣れないギャグで『面白いことを言ってやるぞ』みたいに力んでしまうと、たぶん滑ります。わたしもこの前やった時、滑りました。これはセリフが身体に馴染んでいなかったせいです。これはセリフが自分のものになるまで稽古するしかないと思います。手品とは別の難しさがあります。人前で恥を捨てるという稽古が必要かと思われます。

こういう芸が自然にこなせるようになれば、他のマジックも面白くなるような気がします。スライトが上手くなるのも、もちろん大切だとは思うのですが、『技術的な上手い下手の彼岸』をダーク大和師匠から学べたような気がします。本当に素晴らしい奇術師です。

Garret Thomas “Any Questions”

ギャレット・トーマスの『Any Questions?』。まだ新人だった頃のギャレット・トーマスにフォーカスを当てたレクチャービデオ。どれもこれも印象的でワクワクするマジックばかり。残念ながらDVD化されていません。
オープニングタイトルで軽くコンタクトジャグリングをやってるのですが、これがまたカッコいい。わたしはこのVHSでコンタクトジャグリングを知って練習しようと思った次第。

それでは、中身を一つずつ見ていきます。

1、リングシング(超オススメ!)
外した指輪が瞬間的に指に戻るトリック。外した指輪が戻る現象はおそらくこれが元祖だと思われます。ルーティン化されているものとしては水沢克也氏のフォーカスが手順的に完成されてるので、いわゆる『現場』で使えるマジックをやりたい人はそちらを参考にしてください。
しかし、ギャレット・トーマスのこの、なんなんでしょうか。指の動かし方がめちゃくちゃ滑らかで、指輪を抜いたり、両手を改める動作の中にも美しさと個性を感じます。この人のコインマジックもそうですが、こうした現象の外で行われる所作ひとつひとつが人を魅了する気がします。

2、Soft Salt
これオチを言っちゃうと多分ダメなやつなのでぼかしますが、現象は消えるハンカチーフのバリエーションです。現象は面白いのですが、自分はこれを演じる機会がありません。というのも、自分が演技をする場所に塩瓶がありません。自分で用意した塩瓶でやると、面白さが激減するのでやる機会が全然ないのです。で、ソルトアンドシルバーというコインが塩瓶の下に移動するという現象と組み合わせれば面白いのかな? と、ふと思ったのですが、多分、というか絶対に現象が散漫になると思うので止めました。

3、Threasy
現象自体はコインプロダクションですが、最初は「このコインは右手と左手のどっちにある?」という導入で始まります。ぬるぬるした手順で面白いです。シェルとフリッパーを使用するのですが、ダブルシェル(3CM、Triple Threat、triad coin)でも同じことができるので、持ってる人はやってみるといいかもしれません。思いのほか観客が食いついてくると思います。

4、GT3FLY

ギミックを使います。フリッパーとシェルです。スライト童貞でもこれだけのスーパーギミックがあれば自動的に不思議なことが起こせるぜへへへと思っていたら、そうは問屋が卸しません。めちゃくちゃ難しいです。しかし、最後の一枚のバニッシュが綺麗に完璧に消えるのでめちゃくちゃ不思議です。このバニッシュはとても素晴らしいです。ただ、ルーティンとしてみるとやっぱり難しすぎるし、途中ちょっとモゾモゾ感あるし、シェルだけの手順でいいんじゃね? とも思います。とにかく最後の一枚を消すところがかなり怖いです。失敗するとギミックをオシャカにする可能性があるので、練習が必要です。カイジの鉄骨綱渡りみたいなスリルが好きな人向けです。技術的には、このVHSのトリで解説される有名なビッグコインリトルパースよりも難しい気がします。

5、switchless-ptc
シガースルーコインのスイッチ方法です。スプリング式のシガースルーコインをスイッチする時に使用されています。結構気を使うスイッチで、個人的にはあまり好みじゃないです。

6、ナックルバスター(超オススメ!)

薬指を引っこ抜きます。完全にちぎれてます。手の平と甲の両面を改めます。ちぎれた指を押し付けると元どおりになってます。
すごく好きな現象です。指の軟体運動みたいな現象なので、柔らかくなるまでちょっと時間かかりますが必ずできるようになります。角度が際どいので、そこは要研究です。めちゃくちゃいいマジックです。親指切る手品の後にやると驚かれます。

7、マッチバック
マッチブックに一本だけマッチが入ってて、火をつける。そしてマッチブックを再度開くと新品の状態になっている。
これはすみません。人前で演じたことがないです。ネタが単純すぎて、あんまりやる気になれない。

8、blind’em and find’em(オススメ)
アホみたいに頑丈に目隠しをしてカードをバラバラに切り混ぜてスペードのエースからキングまでを順番に抜き出していく。さらに全てのマークと数字が1から13まで順番に揃っている。

この手のルーティンは約束された面白さがあります。演技自体はフォールスシャッフルとフォールスカットができればいいので、出し方は好きなようにやればいいと思います。これのキモは滑稽な目隠しをするという絵面にあり、いかに道化を演じられるかで、面白さが全く変わると思います。それ故に技術的なことより、パフォーマーとしての能力が問われるマジックのような気がします。こういう類のマジックはめちゃくちゃ好きです。

9、Big coin Little purse(超オススメ)
このビデオのラストを飾るトリックだけあって派手で本当に面白い。コインを揉むと大きくなったり小さくなったりします。大きくなったコインを小さなパースに押し込むと四次元に吸い込まれるようにスルッと入ってしまいます。再びパースからコインを取り出すのですがジャンボコインが二枚も出てきます。ありえません。さらにジャンボコインをこすると巨大なマンモスコインに変化します。

ゴッシュマンパースとジャンボコインとジャンボシェルとマンモスコインを使った手順。
こういうドラえもん現象って、どうしてこんなに人を惹きつけるんでしょうか。
ギャレットトーマスのペットトリックだけあってめちゃくちゃやりなれてます。ずっと見ていられる面白さ。めちゃくちゃ難しいし、タッチの問題もあって本人以外がそのまま演じるのは難しいですが、練習してる時間が幸せになれるルーティンです。

【総評】

何故、DVDで出さないのか!

素晴らしいレクチャービデオなのに!