お気に入り手品アイテムをひたすらレビューするブログ

愛してやまない手品道具について語ります。

『スカルダガリ』ルーク・ジャーメイ

人の心を思いのままに操ってみたいと思ったことはありますか? その人の記憶を消したいですか? 水をジュースに変えて驚かせたいですか? 自分のことを好きにさせたり尊敬させたりして、魔法使いのようになってみたいですよね?

そう思ったあなたは、度し難いクズです。

しかしけれども、パフォーマーを志す者はクズ野郎であった方が良いのです。というのも、歴史的に見ても世界の独裁者や宗教教祖と言われる人たちは、大きなコンプレックスを抱えていたり、人格的に何かが欠落している人ばかりで、その欠落を埋めるための欲求が、行動力の源になっていることがままあるからです。
なので、もしあなたが救いようのないクズ野郎であれば、それを誇りに思うがよいでしょう。HAHAHA。

ところで、わたしが25歳の頃でした。自分に何のセンスもない凡人であることに気づいて手品にも人間にもこの世にも絶望していた時に、このレクチャーDVDに出会いました。その時のわたしは勤めていた家電屋(自転車部門)を辞めて、引きこもりのニートになっていました。パワーを欲していました。世界を牛耳るほどの力を。愚かな人間どもを支配する力を。

家電販売員を辞めて無為な生活を送っていたその頃のわたしはあらゆる手品から遠ざかっていました。自分には特筆すべきテクニックもなく、どっちかというと下手クソでした。かといってギミックによって成し遂げられた現象はわたし自身の能力ではないと思っており、それは誰にも自慢できなくて悔しい。ギミックなんて使っていてはマジックマニアにバカにされる。『それいくらで買ったの』『買えば誰でもできるんでしょ?』そんなこと言われたらげんなりする。もう嫌だ。

って、もちろん、実際はそうではありません。ど素人が高級な包丁を使ったからと言って料理がうまくなるわけがないのと同じで、どんなに不思議なギミックでも、使い手に技術がなければオママゴトにしかならないのです。

しかし、未熟なわたしはそのことに気づけなかったのです。

テクニックがなく、ギミックにも興味を失い、それでも手品という芸能を手放せなかったわたしはタネも仕掛けのない奇術を探し求めました。

だからもし、今、自分の手品の技量に自信を失ってギミックに対しても興味を失い、マジックの迷い子になっている人がいるなら、このDVDに救いを見いだすでしょう。

『何を言ってやがる。目を覚ませよ、このゴミが』

と、おっしゃる純手品人もいるでしょうが、いやいや。いいのです。なんども申し上げますが、カリスマは究極の愚者でなければいけないのです。

では、みなさんに紹介しましょう。

【ルーク・ジャーメイ『スカルダガリ』】

暗示とマジックを融合させたマジックです。厳密に言えば、ほとんどが催眠術の応用です。ルーク・ジャーメイさんは催眠術という言葉を好んでいないらしく、これらの技法を『暗示』と言っていますが、まあ同じじゃねーかと思います。なんにせよ手品的な手先のテクニックはほぼ使っていません。が、それゆえに催眠の知識がない人にとっては『こんなのできねーよバーカ』と、なるような気がします。

ここ数年でバーディー師の画期的な『ヒュプノベンディズム』によって、マジック界にも催眠に興味を持ち出すクソ野郎どもが増えてきました。
が、わたしほどのクソ野郎にもなりますと、時代を先取りしていますから学生の頃から、気功、タロット、川上たけしに興味を抱き、怪しい催眠術師のクソぼったくりDVDを買って勉強しておりました。ですから、この分野には大変明るいわけして、そんじょそこらのニワカ催眠手品師とはワケが違います。自信を持って催眠術について語る権利があります。えっへん!

というわけで、以下、わたしが感銘を受けた演技について記述していきます。

1、リバース・ゲシュタルト・モーメント

見せたトランプを忘却させる術です。厨二病みたいなタイトルセンスですが、本人にも自覚があるようです。
舞台上に二人の観客をあげて、リラックスさせた状態で座らせます。で、二人の観客に同じカードを見せるんですが、片方の観客はマジシャンの合図とともにそのカードが思い出せなくなるのです。おいマジかよ。ルークさんよお。フォースの力じゃねえか!

人間の認知のメカニズム(?)を利用した素晴らしい手順です。失敗したら普通の手品になってしまうんですが、それでもちゃんと成立してるし、ビビらず演じることができましょう。

2、フォー・アンドルッツィ

振り子(以下、ペンデュラム)を使った脈止めです。
ペンデュラムの揺れに合わせて観客の脈が徐々に止まっていき、ペンデュラムが動き出すと脈が再び動き出すのです。やった、自分の手を汚さずに人を殺せる!
これは古典的な脈どめトリックではありません。もはや手品でもなんでもありません。暗示です。催眠の知識があった方がやりやすいです。

3、セブンス・ディセプション

紙片に観客自身の恐れているものを書いて折りたたんでもらいます。それに火をつけて灰にすると観客の心にあった恐怖が綺麗さっぱり消え去るという現象です。これを見たとき、コックリさんと同じだ! と、思いました。これは間違ったやり方をすると大変なことになりそうです。例えば暗い部屋にロウソクを灯して自我が成長しきれてない思春期の子供たちを集め【これからきみの中にいる怪物をよびだそう。その怪物に飲み込まれると、きみは、なんにだって、なれるんだよ】と、信じ込ませることに成功したら、果たしてどうなってしまうのか。

4、ツイステッド・パーム

手のひらのシワをじっと見つめているとシワがグルグル動き出す術。たぶんいきなりこれだけやるのは無理なんじゃねーの? と思います。事前にクッションになる暗示をかけないと。いきなりこれだけ単発でやっちゃうと難しい気がします。が、わたしが路上で手品やってた時はいきなりこれをやっても成功することが度々ありました。たぶん路上で自分から積極的に芸を観たがるお客さんは、暗示にかかりやすい性質の人が多いからでしょう。ストリートマジシャンなどは路上でヤリまくって信者を増やし、自らのテジナ帝国を築いてみるといいかもしれません。

【総評】

当時のわたしはこのDVDを観て感激して知人のガンダムオタクにやってみたところ、全然成功せず、鼻で笑われました。憎い。ころす。ルークジャーメイ許さん。と、このDVDをゴミ認定してお蔵にしました。が、今になって思うと、その時のわたしはやはり催眠の知識と経験値が少なかったせいで、この作品の偉大さに気づいていなかったのです。

解説でも『暗示』についてもザッと語られてるのですが『なぜ人間は暗示にかかるのか』という原理そのものには語られてません。なので、演じる側はその現象の原理(何故そうなるのか?)を理解しないままこの通りやって失敗するというわけです。映像中の観客は見たところ、初っ端から暗示に入りやすいタイプの人だということが伺えるのですが、解説では暗示にかかりやすい人の選別方法やその重要性が語られていないのです。
ですから、このDVDを見る前に、他の教材で、『暗示』や『催眠』とはいかなるものかを把握してから視聴したほうが良いと思われます。

ジャーメイさんもバナチェックの書籍『サイコロジカル・サトルティ』をぜひ買うようにと言ってます。日本人で似たような感じのものとして挙げるなら、北原禎人師の一連の書籍だと思いますが、もう販売してないっぽいですね。残念。

とにかくスカルダガリは予備知識がないと『こんなの無理に決まってる』で終わってしまうことでしょう。
ですが、失敗してもアウトがきちんと手品として成立しているので、【自分にはゴミのような人間どもを支配する力がある】と、自信を持って演じればすべてうまくいきます。大丈夫。わたしが保証します!